相続税 不動産の節税策 生前対策 購入②

生前対策として、多額の現金を収益不動産に組み替えることは、相続税の節税を図るうえで非常に有効な方法です。この方法は、現金の評価額がそのまま課税対象になる一方、不動産に替えることで相続税評価額を抑えつつ、資産を運用して収益を得ることができるため、節税と資産運用の両立が可能です。

以下に、その具体的なメリットや注意点、手法について詳しく解説します。


1. 多額の現金を収益不動産に組み替えるメリット

(1) 相続税評価額を下げられる

現金は額面そのままで評価されますが、不動産は相続税評価額が実際の時価よりも低く評価されることが一般的です。

  • 土地の評価額:路線価または固定資産税評価額をもとに算出されるため、実勢価格の70~80%程度になることが多い。
  • 建物の評価額:固定資産税評価額をもとに算出されるため、実際の建設費や市場価格よりも低くなることが多い。

例えば、1億円の現金を使って収益不動産を購入した場合、不動産の評価額が6,000万円程度になることもあります。これにより、相続税の課税対象額を大幅に減らすことができます。


(2) 収益を生み出す資産に変えられる

収益不動産(賃貸マンションや商業ビルなど)を購入すると、賃貸収入を得られるため、資産の運用効率を高めることができます。賃料収入を得つつ、資産を運用できるため、生前対策の一環として非常に効果的です。


(3) 小規模宅地等の特例が活用できる場合がある

収益不動産の敷地が「小規模宅地等の特例」の対象となる場合、相続税評価額がさらに減額されます。例えば、特定の賃貸用建物の敷地については、相続税評価額が50%減額される場合があります。


(4) 借入を活用すれば相続税評価額をさらに抑えられる

収益不動産の購入にあたって、現金の一部を頭金にし、残りを金融機関からの借入金でまかなう方法も有効です。借入金がある場合、その分は相続財産から控除されるため、相続税の課税対象をさらに減らすことができます。


2. 手法:現金を収益不動産に組み替える流れ

(1) 不動産の選定

収益不動産を選ぶ際には、以下の条件を検討します。

  • 立地:需要が高く、安定的な収益が見込めるエリア。
  • 物件タイプ:賃貸マンション、アパート、商業ビルなど、目的に合った物件。
  • 利回り:購入価格に対する年間収益の割合(表面利回りや実質利回り)を確認。

(2) 資金計画の立案

  • 購入資金を現金で全額支払うか、借入を組み合わせるかを検討します。
  • 借入を利用する場合は、利息や返済負担が収益を圧迫しないよう計画を立てます。

(3) 購入契約と管理体制の構築

  • 不動産購入後は、賃貸経営をスムーズに進めるため、信頼できる管理会社を選ぶことが重要です。
  • 建物の維持管理や空室リスクへの対策をしっかり行います。

3. 注意点

(1) 運用リスク

収益不動産は賃貸経営を前提としていますが、空室リスクや賃料下落のリスクが伴います。物件選定時には、賃貸需要の安定性や周辺市場の動向を十分に調査する必要があります。


(2) 維持管理コスト

収益不動産は、固定資産税や修繕費、管理費などの維持管理コストがかかります。これらのコストを見込んで資産運用計画を立てることが重要です。


(3) 相続税評価額の変更リスク

税制改正などにより、不動産の相続税評価額が変わる可能性があります。現行の評価基準だけに依存せず、長期的な視点で節税効果を検討することが必要です。


(4) 流動性の低下

現金はすぐに使える資産ですが、不動産は流動性が低く、売却には時間がかかる場合があります。資産の流動性を確保するため、すべてを不動産に替えるのではなく、現金も一定額保有しておくことをお勧めします。


4. 具体的なシミュレーション(例)

  • 現金資産:1億円
  • 購入する収益不動産:8,000万円(評価額6,000万円)
  • 残り2,000万円を現金で保持
  • 借入金:なし(全額自己資金)

相続税評価額の比較

  • 現金1億円の場合:1億円がそのまま相続財産に算入される。
  • 不動産に替えた場合:評価額6,000万円+現金2,000万円=8,000万円。

節税効果:相続財産が2,000万円減額されるため、相続税率30%の場合で約600万円の節税。


5. まとめ

生前対策として、多額の現金を収益不動産に組み替えることは、以下の効果をもたらします。

  • 相続税の評価額を下げ、節税効果を得られる。
  • 賃料収入を得て資産を効率的に運用できる。

ただし、収益不動産には運用リスクや維持管理コストが伴うため、物件選定や資産計画を慎重に行うことが重要です。具体的な計画を進める際は、税理士や不動産の専門家と相談し、最適な方法で対策を講じるようにしましょう。